「オレってやっぱりうまいかも」
有意義に過ごせた6年間の大学時代の後、大学の医局から入局のお誘いもあったのですがはやく臨床技術を習得し歯科医師として1人前の力をつけたくて、横浜のつづき歯科医院で勤務しました。
院長の續肇彦先生は臨床技術もさることながら人間性も一流で、患者さんへの接し方や歯科治療に対する考え方などを学びました。勤務し始めて半年ぐらいがたった頃でしょうか、すこしずつ治療を任せてもらえるようになりました。院長先生はことあるごとにまだまだ未熟な私をほめてくれていました。
「オレってやっぱりうまいかも」
技術の習得ばかりに一生懸命で、一番大切な患者さんとのコミニュケーションをおろそかにして少しおごりがあったのかもしれません。
「あんなに痛くて乱暴な治療ははじめてだ!」
ある患者さんを痛がっているのに強引に治療をしてしまいました。「あんなに痛くて乱暴な治療ははじめてだ!」その患者さんは帰り際にそういって帰られたそうです。それを聞いた院長先生は私を呼び、「先生、ちゃんと患者さんのいってることを聞いてるの?患者さんはウソをつかないよ、そんなことじゃ患者来なくなっちゃうよ!」あのやさしかった院長先生がこのときばかりは鬼のような形相になり、厳しく叱られました。
それから1ヶ月の間院長先生とは口を聞いてもらえず、治療もさせてもらえませんでした。すごく落ち込み、自分が情けなくて仕事に行くのがとてもつらかったです。
1からやりなおしだ
「院長先生にほめられていい気になってたけど、本当は自分は歯医者に向いてないんじゃないか」「歯医者なんか辞めてやろうか」と真剣に悩みました。しかし私は歯医者以外何もできません。それに歯医者になって一番喜んでくれた両親に申し訳ありません。
「1からやりなおしだ」と心を入れ替えて診療の補助をしながら院長先生の歯科技術だけではなく患者さんとのコミニュケーションの仕方も勉強しなおしました。
するとすこしずつ院長先生も声をかけてくれるようになり、また治療も任せてくれるようになりました。今度はちゃんと患者さんを気遣い、コミニュケーションを取りながら治療を進めていきました。
ある患者さんの親知らずを抜歯した翌日、消毒に来てもらったとき診療後に「痛くなくて上手に抜いていただいてありがとうございました」といわれました。涙が出るほど嬉しかったことを覚えています。